ブルゴーニュ・ワイン
初級講座

1.ブルゴーニュの概要

ブルゴーニュワインの地域はフランスの都市ディジョンを中心とし、中世のブルゴーニュ公国の勢力が及んだ範囲からなる。ディジョンの北西140キロ程に位置するオーセールから南は美食の都市リヨンまでのおよそ260キロに及ぶ広大な地域でワインが生産されている。

現在の行政区画では、オーセールのあるヨンヌ県、ディジョンのあるコート・ドール県、マコンのあるソーヌ・エ・ロワール県、リヨンのあるローヌ県にまたがっている。

ヨンヌ県の生産地域には、オーセール周辺のコート・ドーセールと白ワインで有名なシャブリがある。

コート・ドール県は、その名が既にワインの黄金の丘として世界に知れている。赤、白両方のフルーティなワインから偉大と言われるワインまで造られている。このコート・ドールの北がコート・ド・ニュイで南がコート・ド・ボーヌと呼ばれる。コート・ドール・ワインの中心の町はボーヌで、ブルゴーニュ有数の酒商がこの町にひしめき合っている。

ソーヌ・エ・ロワール県には北のシャロン・シュール・ソーヌ市の西に広がるコート・シャロネーズ、南のマコン市を中心とするマコンがある。両地方とも赤・白両方のワインを造っている。シャロネーズの方が赤の割合が高く、マコンの方が白の割合が高い。

ローヌ県にはマコンのすぐ南からリヨンの北にかけて広がるボジョレがある。主にフルーティな赤ワインが造られている。

特に有名なのが、コート・ドール、シャブリ、ボジョレといった所。これらに続いてマコンとその秀逸な地区プイイ・フュイッセがある。残るシャロネーズ、コート・ドーセールの名前はあまり知られていない。

シャロネーズは歴史的にコート・ドールの一部であったが、現代の行政区画で切り離されてしまった。マコンのベネディクト派クリュニー修道院の修道僧達がシャロネーズを開墾して行った経緯は、同じくシトー派の修道僧達がコート・ドールを開墾して行ったのと同じ経緯で、一時は貴族のワインとまで言われた。時としてコート・ドールに並ぶ質のワインを生み出しており、穴場的存在と言えるが、生産量の関係で入手困難なワインとなっている。

マコン市の西の丘には、マコン・ワインとして秀逸なプイイ・フュイッセがある。このワインもコート・ドールの上物と並ぶ白ワインとして評価が高い。

ボジョレは毎年11月に、ボジョレ・ヌーボーという新酒が出回り、お祭り騒ぎとなる。この他に特別に10の地域が格付されており、フレッシュなものと違った、力のある赤ワインを生んでいる。

2.ブルゴーニュ・ワインの品質保証

ブルゴーニュ・ワインはフランスのワインの品質を保証する法律、原産地統制呼称(A.O.C.)によって規定されている。この法律はブルゴーニュ・ワインについて大きく3つの階層に分類している。下から、地域呼称、次いで村名呼称、特級畑呼称と順に階層が上がっていく。

それぞれ、その土地の持つ特質や、一定条件のブドウ栽培法、醸造法によって造られたワインに対して、その名が許されるようになっていて、当然地域より村、村より特級畑の方が高級となる。特級畑ともなると、時には信じられない値段がつけられ、とても入手困難なものまである。

2−1.地域呼称

地域呼称の底辺が、ブルゴーニュと名の付くもので、これはブルゴーニュの4県から生産されたワインにその名が許される。次いで、シャブリ、コート・ドーセール、(オート・)コート・ド・ニュイ、(オート・)コート・ド・ボーヌ、コート・シャロネーズ、マコン、ボジョレといった地域名を名乗るものがある。

22の地域名が指定されており、ブルゴーニュ全体の53%のワインが、それぞれの地域名で販売されている。

このクラスは一般にフレッシュで気軽に楽しむタイプのもので、価格も安い。買ったらすぐに飲むのがいい。

2−2.村名呼称

村名呼称は、決められた村々から生まれるワインのみに許される。これの底辺にコート・ド・ニュイ、コート・ド・ボーヌ、マコン、ボジョレなどの地域の一定の村に許されるヴィラージュがある。ヴィラージュとは村といった意味なので、それぞれの村の個別名称は名乗れない。しかし、名の知られていない村では、村名を出すより、名の知られている地域名称にヴィラージュとして売った方がいい場合がある。

例えばコート・ド・ボーヌのマランジュで、マランジュとして出されるものもあるが、多くはコート・ド・ボーヌ・ヴィラージュとして出される。なお、村によっては村名だけを表示することが許されないものがあり、そういった村はヴィラージュだけを用いることになる。

このクラスも基本的には気軽に楽しむタイプ。熟成を楽しむものではない。

次に村名だけを名乗る階層が来る。例えば、ポマールやムルソーである。村の特徴が出るようになり、品質が良くなる。さらに、この村名に畑名を連ねる事が出来る。これは法律的な品質保証ではないが、醸造者の誇りを現すもので、時に良いものがある。しかし、時に単なるお飾りの場合もある。

42の村名が指定されており、ブルゴーニュ全体の35%のワインが、それぞれの村名で販売されている。

村名に一定の品質が認められた1級の畑の名前を付けたものが、村名呼称の上位に来る。例えば、ポマール・プルミエ・クリュ・レ・ゼプノなどと名乗ったものである。同じ村の中で複数の1級畑のものだけをブレンドした場合、畑名は名乗れず、プルミエ・クリュという名称だけがつけられる。

562の1級畑が指定されており、ブルゴーニュ全体の10%のワインが、それぞれの名称で販売されている。

このクラスは熟成を楽しむワインとなってくる。特にプルミエ・クリュの場合、芳醇で素晴らしいワインに出会う事になるので、3年から5年以上寝かしたものが飲み頃となってくる。プルミエ・クリュの中にはグラン・クリュに迫るものも多く、価格もグラン・クリュより安いので、掘り出し物が見つかる場合がある。特にそんなに有名でない村名のプルミエ・クリュなどに掘り出し物がある。例えば、オグセ・デュレッス村などだ。

2−3.特級畑呼称

ブルゴーニュの最高峰に位置するのが特級畑呼称のもの。このクラスはその畑の名前だけを名乗ることが出来る。例えば、ヴォーヌ・ロマネ村のロマネ・コンティなど。大変品質が高く、値段も高い。ブルゴーニュのステータス的存在でその名声は世界の注目の的となっている。ワイン好きの垂涎の的。

33の特級畑が指定されており、ブルゴーニュ全体でもたった2%のワインがこの特級名称で販売されるのみ。希少価値ともなっている。

このクラスは熟成して本領を発揮する。最低でも5年、10年以上寝かせる事もある。まさに至高のワイン。飲む側もちょっと着飾って飲みたいワイン。

2−4.統制呼称外の表示

モノポール
一つの醸造家が一つの畑(法律で名前がつけられているもの)を所有している場合、モノポールと表示される。これは、歴史的経緯から通常一つの畑には複数の所有者がいるため、逆にモノポールは珍しいものとなっている。モノポールはそれを出す醸造家の誇りを表している。
(その質は、その醸造家の質いかんでもある)

ビオディナミ
いわゆる無農薬有機栽培のワイン。加えて、アドルフ・シュタイナーの提唱による、自然との調和を求めた栽培法と製造法を取り入れ造られたワイン。確かにテロワール(地酒の本質的性格)を語るとき、ビオディナミであることや、それに則した造りのワインには意味がある。このワインには当たり外れがあって、醸造家の技術や取り組み姿勢が試される。最近は優れた醸造家達もこれに取り組んでおり高い評価を受けている。因みに、ロマネ・コンティを出す、ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ社の製造法などは、伝統を守り続けたもので、このビオディナミに近いと言われている。

ヴィエイユ・ヴィーニュ
古木から取れたという意味。普通ブドウの木は樹齢5年くらいからワインに供せる実をつけ始め、15年くらいのものから楽しめるワインが造られるようになる。25年くらいから質的な最盛期を迎え40年、50年と続く。それ以降はその木自身の生産量が落ちるため、通常若い木に更新されてしまう。しかしきちんと手入れをしていくと100年以上にもなる。ブルゴーニュでも樹齢60年、80年のものがかなり残されており、これらの古木から実るブドウのみで造られたものにヴィエイユ・ヴィーニュと名が付けられる。ただし、現在の所この名前を付ける法律的な根拠は無いようだ。といっても、古木なのだからせめて60年は越えてもらいたいところだ。
一般にブドウ畑では古い木の隣に若い木を植えて、常に一定以上の樹齢の木を保つようにしている。古木の良さは生産量が落ちる代わりに、エッセンスを豊富に持つ力強い葡萄を実らせる様になること。よって、ヴィエイユ・ヴィーニュは他と比較して力強いワインに成長する。例えばシャブリのVVにはグランクリュに匹敵する味わいを持つものがでる。

自家瓶詰めワイン
ブルゴーニュのワインはそれぞれの栽培・醸造者(以下醸造家とする)がワインを作り、これを酒商が買ってブレンドなどしながら酒商のラベルで世界に販売されるというのが従来のスタイルだった。戦後アレクシス・リシーヌなどの働きかけによって、醸造家が独自のラベルを持ち、自家瓶詰めワインとラベルに表示して販売するようになり、自分の名前がラベルに出る事などによって、必然とワインの質が向上していった。よって、自家瓶詰めワインにはいい品質のものが見いだせる。しかし、これも醸造家の技量にかかっている。現在自家瓶詰めと名乗る事については厳しい法規制があるが、それをくぐり抜けるような表示もある。

正当な表示
Mis en Bouteilles au Domaine ミザン・プーテイユ・オ・ドメーヌ(自家瓶詰め)
Mis en Bouteilles a la Propriete ミザン・ブーテイユ・ア・ラ・プロプリーテ(生産者による瓶詰め)

酒商が自分のワインにつける表示
(自家瓶詰めとは異なる、ただし酒商が自分で畑を所有している場合もある)
Mis en Bouteilles par le Proprietaire ミザン・ブーテイユ・パー・ル・プロプリテール(ぶどう園所有者による瓶詰め)
Mise en Boutailles dans nos Caves ミザン・ブーテイユ・ダン・ノ・カーヴ(酒蔵元詰め・これは酒商のブレンドもの)
Mis en Bouteilles dans nos Chais ミザン・ブーテイユ・ダン・ノ・シャイ(倉庫元詰め・これも酒商のブレンドもの)

意味のない表示
Mis en Boutailles au Chateau ミザン・ブーテイユ・オ・シャトー(シャトー元詰め)これはシャトーが必ず自家元詰めとなるボルドーで意味がある。ブルゴーニュは畑によって統制呼称がつけられているので、シャトーと名乗る醸造家の誇りしか意味を持たない。
Grand vin de Bourgogne グラン・ヴァン・ド・ブルゴーニュ(ブルゴーニュの偉大なワイン)
勝手に使われているだけで、実質的な意味はない。量販品の売り文句に多い。

3.ブドウ品種

ブルゴーニュのブドウ品種は
赤:ピノ・ノワ
白:ピノ・シャルドネ
の2つの高貴品種が使われる。これ以外の品種では原則的に統制呼称としてブルゴーニュしか名乗れない。また、使った品種を明示しなければならない。例)ブルゴーニュ・アリゴテ

ただし、白ワイン用のアリゴテ種からは、かなりのフレッシュタイプのワインが造られている。これはブルゴーニュ・アリゴテと表示されて販売されている。気軽に飲むにはいいものもある。

ボジョレでは赤ワインにガメイが使われる。ガメイが華やかな本領を発揮するのはボジョレ地区に限られる。ガメイはコート・ドールの土地に合わないとされている。