紀行文 |
6月5日、アウトシュタッドのイベントが終わった翌日、朝8時にヴォルフスブルグを発った。目指すはドイツワインの最高峰ラインガウ地域だ。ラインガウ地域へは、フランクフルトまでただただ南下し、そこから西に少し走った、ヴィスバーデンという町を過ぎた辺りから始まる。フランクフルトまでは400キロの道のり。これを4時間で走破し、お昼にはラインガウに到着する予定だった。 車はひたすら南下を続け、ハルツ地方を走りすぎ、山並みの風景がゆるやかな農園風景に変わっていった。順調に走っていたのだが、途中かなりすごい工事渋滞にぶつかってしまった。ドイツの高速道路は結構渋滞する。結局ラインガウの玄関、ヴァルーフに着いたのは午後1時頃だった。 ラインガウ地域は、東の飛び地になっているホッホハイムから始まり、ライン川北岸沿いにヴァルーフからブドウ畑がはるかに続き、ラウエンタル、ハッテンハイム、ヨハニスベルグ、リューデスハイムというラインワインの銘醸地帯を連ね、赤ワインの有名産地、アスマンハウゼンを西端にして終わる。ここから先は、ミッテルライン地域となる。また、ヴィスバーデンはゼクトという発泡酒を作る会社が集まっており、ラインガウ地域は赤、白、発泡酒となんでも揃っている。 ラインガウの東部は、繊細で優雅なワインになる傾向にあり、これが西に移動するに従って、力強さが加わってくる。ラウエンタルのワインは、その優雅さによって、ドイツの中のドイツワインという名声を勝ち取っている。ハッテンハイムには単独畑として名声の高いシュタインベルグがあり、ドイツ一といわれる醸造所クロスター・エーベルバッハがある。ヴィンケルには最も気品あるワインを作ると名声の高いシュロス・フォルラーツがあり、ヨハニスベルグには力強さの象徴シュロス・ヨハニスベルグがある。 ヨハニスベルグより西に向かうと、ライン川両岸の斜面が川に迫って来ると共に急峻となる。リューデスハイムまで西に進むと、リューデスハイマー・ベルグと呼ばれる、急傾斜地のブドウ畑から作られるワインが力強く、高い評価を得ている。そしてラインガウの赤ワインの産地、アスマンハウゼンに到達する。 私は、それぞれのブドウ畑を回って行った。ライン川の川幅は800メートルにも達する。まさに優雅な大河だ。その北岸のブドウ畑は、太陽の恵みをいっぱいに受けて、緩やかに斜面を駆け上がって行く。そして幅にして数キロ、時にして5キロ程の広大なブドウ畑地帯を織りなしている。小高い丘から見下ろす、ラインガウの地域の風景はまさに絶景だった。悠久の時間が流れている。そしてそこに素晴らしいワインが根付いている。 ドイツの中のドイツワインという名声のあるラウエンタルに行ったとき、幸運にもブーベンホイザー・ヴァインルンデという、ラウエンタルのワイナリーが数社集まったワインとバーベキューなどを楽しむイベントに参加するいことが出来た。おかげで、クロスター・エーベルバッハを含む数社のラウエンテーラーワインを試飲することが出来た。 印象に残ったのは、なんといってもクロスター・エーベルバッハのシュペトレーゼ、樽の使い方が絶妙にうまい。また、ワーグナーのリースリング・トロッケン・ベーレン・アウスレーゼは、生まれて初めて飲む、ラインガウの貴腐ワインだった。その優雅さ、エッセンスのような厚みと円やかさは今でも印象に残っている。 このワーグナー社、結構値段が安かった。トロッケン・ベーレン・アウスレーゼといえば、1本100ユーロ以上する代物なのだけれど、500ミリリットル瓶が、なんと50ユーロで売っていた。これはイベント格安料金だったかも知れない。しかも試飲用のワインは100ミリリットル5ユーロだった。そこで、じゃぁ、5杯分試飲するから、そのトロッケン・ベーレン・アウスレーゼを一本売ってくれ(25ユーロですむ)、と突っ込んでみたのだが、結局は売ってもらえなかった。 それぞれのブドウ畑を巡るというのは、地図とのにらめっこが必要になるし、方向感覚がものを言う。結構疲れる仕事だ。しかし、そうちょくちょく訪れる事の出来る地区じゃない。しかも、ドイツ銘醸ワインはなかなか入手しにくい。スイスの普通の酒屋では全くお目にかかれない。ここはがんばって、欲張って、見て回ることにした。 ラインガウの西端、アスマンハウゼンに到着したのは夕方だった。もう結構疲れていたし、今日はここで宿泊することにした。安そうなホテルを探す。最初に目をつけたライン川沿いのホテルで値段を聞いたら、ライン川を眺められる部屋が42ユーロで朝食付きだとの事だったので、早速そこに決めた。ゲルマニアという名前のホテルだった。 アスマンハウゼンの町は小さいけれど、古い家並みを残す落ち着いた雰囲気のいい町だった。またライン川の対岸に古城があって、昔の面影を漂わせていた。ここら辺はライン川の流れも早いらしく、大型船の登り方向は大変ゆっくりだった。多分船は全速前進しているのだろうけれど、ほとんどジョギングしている人と同じくらいのスピードしか出ていなかった。船の往来はひっきりなしにあった。まさに輸送の大動脈だ。 町中のレストランに入って、シュバイン・シュニエッツェルという、トンカツみたいなものを頼み、そしてラインガウワインでほろ酔いに気分になった。アスマンハウゼンの赤ワインはフルーティでとても飲みやすかった。この町の時間はゆったり流れているようで、今日の疲れを癒すように、外を眺めながらぼーっとした。とてもいい気分だった。 この日回った地区名とブドウ畑・醸造所を紹介します。どれも高い評価を得ている場所で、この地区を訪れたら、ワインを買ってみる価値のある所です。 地区名()内はその中で有名な畑や醸造所 |