紀行文 |
ラインヘッセンは、北はビンゲンから始まり、その東方やや南のナッケンハイム、そこから南下しニールシュタイン、オッペンハイム、アルスハイム、ヴォルムスに至るまでのライン川西岸地区だ。 ラインヘッセンの名声を集める地域は、ナッケンハイムからオッペンハイムまでのライン川西岸域に集中している。ここはマインツから南に車で20分位の場所で、ライン川がまだラインガウに出会う前の南北に走っている流域に位置している。ブドウ畑が河川沿いにある場合、大抵その西岸がブドウ栽培に適している。これは斜面が東向きになるためで、日照条件が良くなるからだ。
川が東西に走っている場合は、当然北岸が南向き斜面となって適している。その端的な例が、ラインガウ地域だろう。ビンゲンは、ライン川が突如東西に走り始める流域の南岸であって、通常はあまり適していないのだが、ここはナーエ川の合流地点で、ブドウ栽培に都合の良い東向き斜面が広がっている。ビンゲンからナーエ川を登って行くと、ここもまた有名なワイン産地ナーエ地域に至る。
ヴィースバーデンがラインガウ地域の玄関口だとしたら、マインツはラインヘッセン地域の玄関口だろう。というか、ライン川とマイン川の合流点であり、まさにドイツワインの心臓部とも言える。マインツはラインワインのふるさと、ワインの町とも言われている。当然私は行かなくてはならない。ビンゲンから車を東に走らせマインツに入った。落ち着いた感じのいい町だった。ドイツで3本の指に入るという大聖堂は圧巻だった。千年以上の歴史があるという。
しかし、私を待っているラインヘッセンのブドウ畑に気もそぞろ。市内観光もそこそこ、すぐにブドウ畑巡りに出発した。
マインツを出発して最初に出会うのがボーデンハイム。ここから良質のラインヘッセンワインの出来る地域が始まる。 そしてナッケンハイムからライン川沿いに東向き斜面が日当たりを求めるように迫って来る。ここからニールシュタインまでの数キロの長さで、川面に迫った標高80メーターから180メーターあたりの斜面に、見事なブドウ畑が広がっている。ここがラインヘッセン最高峰のワインを産む場所だ。使われるブドウ品種はリースリング。高貴なブドウ品種として知られている。ラインヘッセンのリースリング栽培の中心地がここなのだ。
ラインヘッセンのブドウ畑はその地域名で大まかに区別されるのが普通だけれども、この地域は名声があるだけにさらに細分化されている。ローテンベルグ、ペッテンタル、ホッピング、レーバッハなどが高い名声を得ている。
これらのブドウ畑を過ぎると、ニールシュタインの町に到着する。ラインヘッセンの高級ワインは、このライン川沿いに集中しているけれど、ラインヘッセンのブドウ産地はライン川を西に離れ、緩やかな丘陵地帯に延々と続いている。その風景はほれぼれとするほど素晴らしい。人と自然とが織りなすハーモニーとでもいうのだろうか。
これらの地域では、高級品種リースリングではなく、気軽でフレッシュなワインに適するミューラー・トゥルガウというブドウが栽培されている。実はこのミューラー・トゥルガウがドイツのぶどう栽培の最大品種なのだ。フルーティで飲みやすい中辛のワインが作られる。また、ミューラー・トゥルガウと他の品種をブレンドしたりして作られており、リープフラウミルヒ(聖母の乳)という名称で販売されていたりする。
私がワイン好きになったころ、このリープフラウミルヒによくお世話になった。飲みやすく、フルーティで大好きだった。そのリープフラウミルヒの故郷を見ることが出来たのは感動ものだった。ここで栽培され、醸造家によってチャーミングなワインに育ち、そしてはるばる日本にまでやって来たのだ。
ニールシュタインを過ぎるとオッペンハイム。ここもブドウ畑に囲まれた町で、至る所にワイン屋がある。旧市街はまるで中世に戻ったかのような古い家並みが佇んでいた。美しかった。ここからアルスハイム、ヴォルムスと広大なラインヘッセン産地が続く。
ヴォルムスの外れ、ヴォーネガウがラインヘッセンの境界で、これより南はラインファルツという地域となる。ラインファルツをさらに南下すると、フランス領に入ってアルザスへと続く。ライン川のワインベルトはまるで永遠に続くかのようだった。
ヴォーネガウに到着したのはもう7時近かったので、ここで宿を探すつもりだった。作り酒屋が民宿をやっているなんて所が結構点在しているので、そういう所を狙ってみた。しかし、何故だかその日に限っていっぱいだった。仕方なく、ヴォルムスの町に入って、ホテルを探すことにした。駅近くにホテル・レストランがあって、値段を聞いたらあまり高そうでもなかったので、そこに泊まることにした。
ちなみに飛び込みで入ったせいか、部屋に石けんも置いていなかった。食事もそこで取ったのだが、馬鹿の一つ覚えのようにシュバイン・シュニエッツェル。何故か私はこれが好き。しかも、どこで食べてもあまり外れがない。これとラインヘッセンのリースリング・ハルプトロッケンをあわせて頂いた。豚肉などの料理にも、リースリングの持つ豊富な酸味のおかげで、意外にいけたりするのだ。料理もおいしかった。
このヴォルムスという町も、大きな教会があったりしてちょっと歩くには面白い所だと思う。特に観光で有名な町でもないので、ガイドブックにも載っていないだろうけれど、ラインヘッセンあるいはラインファルツのワイン巡りをしてみたい、と思う人には、その玄関口としてちょっと立ち寄るのも面白いと思う。
この日回った地区名とブドウ畑を紹介します。どれも高い評価を得ている場所で、この地区を訪れたら、ワインを買ってみる価値のある所です。
地区名()内はその中で有名な畑 |